愛犬との散歩中、草むらの中からひょっこり現れるマムシ。「もし愛犬が噛まれたらどうしよう」という不安を抱いたことはありませんか?実は、犬がマムシに噛まれる事故は決して珍しくなく、特に自然豊かな地域では毎年数多くの事例が報告されています。この記事では、「犬はマムシに噛まれても人間より死亡率が低い」といわれる理由や、万が一の際の対処法について詳しく解説します。
犬とマムシの遭遇は、特に散歩中に起こりやすいものです。犬は好奇心旺盛な生き物であり、草むらの中を動くマムシを見つけると興味を示して近づいてしまうことがあります。そんな何気ない瞬間に、マムシによる咬傷事故が発生してしまうのです。
では、なぜ「犬はマムシに噛まれても死なない」といわれるのでしょうか?その科学的根拠と、万が一の際の対処法について、詳しく見ていきましょう。
犬がマムシの毒に強いとされる科学的理由

犬の高い体温がもたらす保護効果
犬がマムシの毒に対して比較的耐性があるとされる理由の一つに、体温の違いがあります。犬の平均体温は約38~39度と、人間(約36~37度)より2度ほど高いことが知られています。この高い体温が、マムシの毒の活性を抑える可能性があるのです。
マムシの毒に含まれる成分は、体内で酵素反応を引き起こしますが、この反応は温度に影響を受けることがあります。犬の高い体温環境では、毒素の一部の活性が弱まる可能性があり、これが犬の耐性の一因となっているという説があります。
生理的特性による毒素への抵抗力
犬はその生理的特性から、マムシの毒素に対して独自の抵抗力を持っていると考えられています。具体的には、犬の体内では酵素の活性化が人間と比較して異なり、毒素に対する反応が鈍い場合があるのです。
マムシの毒は主に血液凝固を妨げる成分や細胞を攻撃する成分を含んでいますが、犬の体内では毒素に対する生物学的防御システムが備わっているため、人間よりも重篤な状態に至りにくいと考えられています。
進化的適応の可能性
長い進化の歴史の中で、犬は様々な環境に適応してきました。特に野生の状態では、様々な危険な生物と遭遇する機会があったことでしょう。その過程で、毒蛇の毒に対する耐性が高まった可能性があります。
この進化的適応により、現代の犬がマムシの毒に対して比較的高い耐性を持っていると考えられています。しかし、これは決して「安全である」ということではなく、個体差や毒の量によっては重篤な症状や死亡に至るケースもあります。
マムシ咬傷時の犬の症状と危険性

初期症状:咬傷部位の腫れと痛み
犬がマムシに噛まれると、まず咬傷部位に激しい腫れと痛みが現れます。この腫れは時間の経過とともに広がっていき、咬傷から数時間後には咬まれた部位を中心にかなりの範囲が腫れあがることがあります。
痛みのために犬は咬まれた部位をかばう行動を示し、足先を噛まれた場合には足を挙げて歩かなくなるなどの変化が見られます。また、腫れが青紫や赤色に変色することも多く、これは血管内で出血が起きていることを示しています。
全身症状:発熱、嘔吐、ショック状態
咬傷部位の症状だけでなく、全身に影響を及ぼす症状も現れることがあります。発熱や嘔吐、食欲不振などの症状が見られ、重症の場合は呼吸困難やショック状態に陥ることもあります。
特に、マムシの毒に含まれる成分は血液凝固を阻害する作用があるため、出血傾向が強まり、さらに腎臓への負担も大きくなります。これにより、急性腎不全のリスクもあるのです。
死亡率は低いが油断は禁物
「犬はマムシに噛まれても死なない」という言葉がありますが、これは誤解を招く表現です。確かに、適切な治療を受けた場合の死亡率は人間より低い傾向にありますが、決して安全というわけではありません。
特に、以下のような条件下では死亡リスクが高まります:
したがって、マムシに噛まれたと思われる場合は、速やかに動物病院を受診することが極めて重要です。
マムシに噛まれた犬への緊急対応

冷静な判断と迅速な行動
愛犬がマムシに噛まれた場合、まず飼い主が冷静さを保つことが大切です。パニックになると適切な判断ができなくなり、対応が遅れる原因となります。
咬傷を発見したら、すぐに最寄りの動物病院に連絡し、来院する旨を伝えましょう。可能であれば、マムシを見た場合はその特徴(大きさや模様など)を記憶しておくと、獣医師の診断の参考になります。
応急処置の正しい方法
咬傷部位は清潔な水で軽く洗い流すことが推奨されています。ただし、強くこすったり、傷口を広げたりすることは避けてください。かつては「毒を吸い出す」という対処法が言われていましたが、これは逆効果となる可能性があるため行わないでください。
また、犬をできるだけ静かに保ち、動かさないようにすることも重要です。犬が興奮したり動き回ったりすると、血液循環が促進され、毒が全身に回るスピードが速くなってしまいます。
病院への搬送時の注意点
動物病院へ向かう際は、犬を安静に保ちながら移動することが重要です。可能であれば、咬傷部位を心臓より高い位置に保つことで、毒が心臓に到達するスピードを遅らせることができます。
移動中も犬の状態を注意深く観察し、呼吸困難や意識の低下などの症状が見られる場合は、その旨を病院に連絡しておくと良いでしょう。
動物病院での治療プロセス

初期診断と緊急処置
動物病院に到着すると、まず獣医師による初期診断が行われます。咬傷部位の確認や、全身状態のチェックが迅速に実施されます。
緊急性が高いと判断された場合は、すぐに点滴や酸素投与などの処置が行われることがあります。特に、呼吸困難やショック症状がある場合は、まずこれらの生命維持に必要な処置が優先されます。
抗毒素治療と薬物療法
マムシの咬傷に対しては、一般的に抗生物質とステロイド剤の投与が行われます。抗生物質は二次感染を防ぐためであり、ステロイド剤は炎症を抑制する目的で使用されます。
人間用のマムシ抗毒素血清が犬に投与されることもありますが、これは症例によって判断が分かれるところです。抗毒素は毒の中和に効果がある一方で、アレルギー反応のリスクもあるためです。
入院と経過観察
症状の重さによっては入院が必要になることもあります。特に、全身症状がある場合や、咬傷部位の腫れが広範囲に及ぶ場合は、継続的な観察と治療が必要です。
入院中は、輸液療法や消炎鎮痛剤の投与、場合によっては酸素療法などが行われます。また、血液検査を定期的に実施し、腎機能や肝機能、血液凝固能などをモニタリングします。
マムシとの遭遇を防ぐための予防策

マムシの生息地と活動時期を知る
マムシは主に湿った場所を好み、水田の周辺や河川敷、草むらなどに生息しています。特に夏から秋にかけて活動が活発になるため、この時期の散歩には特に注意が必要です。
また、マムシは基本的に夜行性ですが、朝方や夕方にも活動することがあります。気温が高い日中は日陰で休んでいることが多いため、草むらの中などに潜んでいることがあります。
散歩ルートと時間帯の選択
マムシとの遭遇を避けるためには、散歩ルートの選択が重要です。舗装された道路や整備された公園など、草むらの少ない場所を選ぶと安全です。
また、マムシが活発に活動する夕方や夜間の散歩は避け、日中の明るい時間帯に散歩することも一つの対策です。ただし、夏場の暑い時間帯は犬の熱中症リスクもあるため、早朝か夕方の涼しい時間帯を選ぶなど、バランスを考慮する必要があります。
リードコントロールの重要性
散歩中は常に犬をリードでコントロールし、危険な場所に近づかないようにすることが大切です。犬は好奇心旺盛な生き物であり、興味を持ったものに近づこうとする習性があります。
特に、草むらや水辺などマムシが潜んでいる可能性のある場所では、犬を近づけないよう注意しましょう。フレキシブルリードを使用している場合は、こうした場所では短く保持するようにします。
咬傷後の長期的ケアと回復プロセス

回復期の在宅ケア
動物病院での治療を終えて自宅に戻った後も、回復期のケアは重要です。獣医師の指示に従い、処方された薬を確実に投与しましょう。
咬傷部位は清潔に保ち、犬が舐めたり引っかいたりしないよう注意が必要です。必要に応じてエリザベスカラーを装着することも検討しましょう。また、安静を保つことも回復を早める重要な要素です。
フォローアップ検査の重要性
回復途中であっても、定期的なフォローアップ検査を受けることが大切です。特に腎機能のチェックは重要で、マムシの毒による腎障害が遅れて現れることもあるためです。
また、咬傷部位の治癒状況も確認し、壊死や二次感染の兆候がないかチェックします。獣医師の指示に従い、必要な検査や治療を継続しましょう。
長期的な健康への影響と対策
マムシの咬傷から回復した後も、稀に長期的な健康影響が見られることがあります。咬傷部位の皮膚が変色したり、組織の硬化が残ったりすることもあります。
また、腎機能に影響が残る場合もあるため、定期的な健康診断を受け、腎機能をチェックすることが望ましいでしょう。食事管理や適度な運動など、全体的な健康管理にも気を配りましょう。
犬種や体格による耐性の違い

大型犬と小型犬の耐性比較
一般的に、大型犬は小型犬に比べてマムシの毒に対する耐性が高いとされています。これは単純に体重の差によるもので、同量の毒が注入された場合、体重の多い犬の方が体重あたりの毒の濃度が低くなるためです。
例えば、体重30kgのラブラドールと3kgのチワワが同量の毒を受けた場合、チワワの体内における毒の濃度は10倍になります。そのため、小型犬はより重篤な症状を示す可能性が高くなります。
年齢による耐性の変化
若い犬と高齢の犬では、マムシの毒への耐性に差があります。一般的に、若く健康な犬の方が毒に対する抵抗力が強い傾向にあります。これは、若い犬の方が代謝機能や免疫機能が活発であるためです。
高齢の犬は腎機能や肝機能が低下していることが多く、これらの臓器は毒素の排出に重要な役割を果たすため、毒の影響がより大きくなる可能性があります。
健康状態と基礎疾患の影響
犬の基礎的な健康状態も、マムシの毒への耐性に大きく影響します。持病がある犬、特に腎臓や肝臓に問題を抱えている犬は、毒素の処理能力が低下しているため、より重篤な症状を示すリスクが高まります。
また、免疫力が低下している犬や、血液凝固に問題を抱えている犬も、マムシの毒による影響が大きくなる可能性があります。定期的な健康診断で愛犬の健康状態を把握しておくことが重要です。
よくある質問(FAQ)

- Q犬がマムシに噛まれたかどうか見分ける方法は?
- A
犬がマムシに噛まれた場合、通常は咬傷部位に2つの小さな穴(牙の跡)が見られます。しかし、毛に覆われていると見つけにくいこともあります。マムシに噛まれた直後は、犬が突然鳴き声を上げたり、咬まれた部位を気にする行動(舐める、引っかくなど)が見られることが多いです。
咬傷後、比較的短時間(30分から数時間)で咬傷部位に腫れが現れ始め、徐々に広がっていきます。この腫れは触ると熱を持っていることが多く、犬は触られることを嫌がります。これらの症状が見られた場合は、マムシの咬傷を疑い、すぐに動物病院を受診することをお勧めします。
- Qマムシに噛まれた場合の治療費の相場は?
- A
マムシに噛まれた犬の治療費は、症状の重さや必要な治療内容によって大きく異なります。軽症の場合で外来治療のみであれば1〜3万円程度、入院が必要な中程度の症例で5〜10万円程度、重症で集中治療や輸血が必要な場合は10万円以上かかることもあります。
治療費には、初診料、検査費(血液検査、尿検査など)、投薬費(抗生物質、ステロイド剤など)、処置費、入院費などが含まれます。特に抗毒素血清を使用する場合はコストが高くなることがあります。ペット保険に加入している場合は、これらの治療費の一部がカバーされる可能性がありますので、事前に確認しておくとよいでしょう。
- Qマムシに噛まれた後、完全に回復するまでどのくらいかかる?
- A
回復期間は咬傷の重症度や犬の個体差によって異なりますが、一般的には軽症の場合で1〜2週間、中程度の症例で2〜4週間程度かかることが多いです。重症の場合はさらに長期間の回復期間が必要になることもあります。
回復のプロセスとしては、まず急性期(咬傷後数日間)に腫れや痛みが最大になり、その後徐々に症状が改善していきます。腫れが引くのには1週間程度、完全に傷が治癒するまでに2週間以上かかることもあります。また、咬傷部位によっては毛の色が変わったり、皮膚に跡が残ったりすることもあります。
獣医師の指示に従い、処方された薬をきちんと投与し、安静を保つことで回復を早めることができます。
まとめ:知識と準備で愛犬を守る

犬がマムシに噛まれても死亡率が比較的低いのは、高い体温や生理的特性、進化的適応などの要因が考えられています。しかし、これは決して「安全」を意味するものではなく、適切な治療を受けなければ重篤な状態になる可能性も十分にあります。
万が一愛犬がマムシに噛まれた場合は、冷静に対応し、速やかに動物病院を受診することが何よりも重要です。応急処置として清潔な水で軽く洗い流し、犬を安静に保ちながら病院へ向かいましょう。
また、日頃からマムシとの遭遇を避けるための予防策を取ることも大切です。マムシの生息地や活動時期を理解し、散歩ルートや時間帯を工夫することで、リスクを大幅に減らすことができます。
犬とマムシの問題は、正しい知識と適切な準備によって対処可能です。この記事の情報が、愛犬の安全を守るための一助となれば幸いです。愛犬と安全に楽しい時間を過ごすためにも、マムシへの対策と対応方法をしっかりと身につけておきましょう。