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ニホンヤモリの食性を理解する

ニホンヤモリは日本の在来種で、家屋の壁や天井に姿を見せる身近な爬虫類です。近年ではそのユニークな姿と比較的飼育しやすい特性から、ペットとしての人気も高まっています。ニホンヤモリを健康に飼育するには、彼らの自然な食性を理解し、栄養バランスの取れた餌を適切に与えることが不可欠です。
自然界での食性
野生のニホンヤモリは夜行性の昆虫捕食者です。日没後に活動し、主に小型の昆虫類を捕食します。動く獲物に強く反応し、静止している餌よりも活発に動く餌に興味を示します。基本的には肉食ですが、機会食性の一面もあり、状況に応じて果実の汁などの植物性の食物も摂取することがあります。
野生のニホンヤモリが好んで食べる主な昆虫類には、コオロギやバッタなどの直翅目昆虫、ガやチョウなどの小型の鱗翅目昆虫、ハエやユスリカなどの双翅目昆虫、小型のクモ類、アリなどの社会性昆虫が含まれます。この自然界での食性を踏まえ、飼育下でもできるだけ自然に近い餌を与えることが、ニホンヤモリの健康維持には重要です。
餌の種類と特徴

ニホンヤモリの飼育において、適切な餌の選択は健康維持の鍵となります。ここでは、主な餌の種類とその特徴について詳しく解説します。
生きた昆虫類(ライブフード)
飼育下のニホンヤモリに最も適しているのは、生きた昆虫類です。動く餌は彼らの捕食本能を刺激し、自然な摂食行動を促します。
コオロギ
ヨーロッパイエコオロギとフタホシコオロギが一般的に使用されています。タンパク質が豊富で、カルシウムとリン比(Ca:P比)のバランスが比較的良好です。活発に動くため、ヤモリの捕食本能を刺激し、サイズが様々あるため、ヤモリの成長段階に合わせて選べるという利点があります。
また、ペットショップで容易に入手できます。ただし、騒音(鳴き声)が気になることがあり、飼育ケージから脱走することがあるため注意が必要です。また、死体を放置すると腐敗の原因になるため、食べ残しは速やかに取り除きましょう。
ミルワーム
チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫であるミルワームは、タンパク質と脂肪が豊富ですが、カルシウム含有量が低いのが欠点です。長期間保存が容易で冷蔵庫で数週間保存可能であり、動きが遅いため捕食しやすく、比較的安価で入手しやすいという利点があります。
ただし、脂肪含有量が高いため与えすぎると肥満の原因になります。また、硬いキチン質の外骨格を持つため幼いヤモリには不向きで、単体で与え続けると栄養バランスが崩れるので注意が必要です。
デュビアローチ
アルゼンチンモリゴキブリとも呼ばれるデュビアローチは、タンパク質含有量が高く脂肪分が比較的少ない優れた餌です。繁殖力が他のゴキブリよりも低く管理しやすく、臭いが少なく脱走のリスクも低いという利点があります。
また、消化しやすい軟らかい外骨格を持ちます。ただし、他の餌用昆虫より高価で、低温に弱いため適切な温度管理が必要であり、入手しづらい場合があるという欠点もあります。
その他の餌用昆虫
ハニーワーム(ハチノスツヅリガの幼虫)は、タンパク質が豊富で脂肪分が適度であり、柔らかく若いヤモリや小型種にも適しています。フルーツフライ(ショウジョウバエ)は、幼体ヤモリには適していますが、成体には栄養価が不足します。幼いニホンヤモリや赤ちゃんヤモリに最適なサイズで、自家繁殖が比較的容易です。
人工餌と代替食
生きた昆虫類の入手が困難な場合や、餌のバリエーションを増やしたい場合は、人工餌や代替食も検討できます。
市販の爬虫類用人工餌
栄養バランスが調整されており、ビタミンやミネラルが豊富です。保存が容易で給餌の手間が少なく、昆虫アレルギーのある飼育者に適しています。また、栄養素が安定しているという利点があります。ただし、ニホンヤモリが好まない場合があり、動かないため捕食反応を引き出しにくいという欠点もあります。単体での給餌は推奨されず、生きた餌と併用するのが理想的です。
果実類と昆虫ゼリー
バナナやイチジクなどの果実類は、糖分やビタミンを補給できる食品です。ビタミンA、C、Kなどの補給源になり、水分補給にもなるという利点がありますが、主食にはならずおやつ程度に与えるべきです。与えすぎると下痢の原因になり、残った果実は腐敗しやすいので早めに取り除く必要があります。
昆虫ゼリーは水分と糖分を含みますが、タンパク質は少ないため、水分補給や餌の多様性を高めるために利用できます。ニホンヤモリが好む味のバリエーションもありますが、主食としては不適切であり、砂糖含有量が高いものは避けるべきです。また、乾燥しやすいので小さく切って与えましょう。
栄養補助とサプリメント
ニホンヤモリの健康を維持するためには、主食に加えて適切なサプリメントを与えることが重要です。
カルシウム剤とビタミン
カルシウム剤は骨の発達と維持、筋肉機能、神経伝達に不可欠です。餌用昆虫にパウダーをまぶす(ダスティング)方法で、週に2〜3回の頻度で使用します。幼体や産卵中のメスはより頻繁に与える必要があります。D3を含まないタイプと含むタイプがあり、UVBライトの使用状況に応じて選択しましょう。また、リン含有量の少ないものを選ぶことが重要です。
マルチビタミンは全体的な健康維持と代謝機能のサポートに役立ちます。週に1回程度、餌用昆虫にパウダーをまぶし、カルシウム剤と同日に与えないよう注意しましょう。爬虫類専用のものを選び、ビタミンA、D3、Eをバランス良く含むものがおすすめです。
ビタミンD3はカルシウムの吸収と利用を助ける重要な栄養素です。UVBライトを使用していない場合はD3入りのカルシウム剤を選び、UVBライトを使用している場合はD3を含まないカルシウム剤を基本とし、時々D3入りのものを与えるとよいでしょう。ただし、過剰摂取は有害なので用量に注意し、UVBライトとD3サプリメントの併用量には注意が必要です。
成長段階別の給餌ガイド

ニホンヤモリの成長段階によって、必要な栄養素や適切な餌のサイズ、給餌頻度が異なります。成長段階別の餌選びと給餌方法について解説します。
幼体(赤ちゃん)ヤモリの餌と給餌
生後3〜6ヶ月程度の幼体ヤモリには、頭幅に合わせた小さめの餌(頭幅の1/3〜1/2程度)が適しています。ピンヘッドクリケット(生まれたばかりの小さなコオロギ)、フルーツフライ、小さなミールワーム、細かく砕いた人工餌などが推奨されます。給餌頻度は1日1回、少量ずつが適切です。
カルシウム剤は週に3〜4回、マルチビタミンは週に1〜2回与えることが重要です。餌が大きすぎると消化不良や窒息の原因になるため注意が必要です。成長が早いため、こまめな観察と餌の調整が必要であり、幼体は脱水症状になりやすいので水分を含む餌も与えましょう。
成体ヤモリの餌と給餌
生後6ヶ月以上の成体ニホンヤモリには、頭幅の1/2〜2/3程度のサイズの餌が適しています。中型〜大型のコオロギ、ミールワーム、デュビアローチ、ハニーワームなどが推奨され、様々な昆虫類をローテーションで与えるとよいでしょう。給餌頻度は若い成体(6ヶ月〜1年)で2〜3日に1回、成熟した個体(1年以上)では3〜4日に1回が適切です。
カルシウム剤は週に2回、マルチビタミンは週に1回与えましょう。オスとメスで必要な栄養量が異なり、産卵中のメスはより多くのカルシウムが必要です。季節によって食欲が変化するため給餌量の調整が必要であり、肥満に注意して適正体重を維持することが重要です。
季節による給餌の調整
ニホンヤモリは変温動物であり、季節によって代謝や食欲が変化します。春から夏の活動期には食欲が旺盛になるため通常の給餌量を維持し、高温期には水分をより多く摂取できる餌も考慮しましょう。
秋(繁殖前)には冬に備えて若干多めの給餌を行う場合もあり、栄養価の高い餌を意識的に与えるとよいでしょう。冬(休眠期傾向)には食欲が減少するため給餌量や頻度を減らします。室温が低い場合は特に食欲が落ちるため、無理に食べさせようとせず自然な食欲の変化に合わせることが大切です。
効果的な給餌テクニック
効果的な給餌のためには、適切な餌の準備と給餌方法が重要です。餌の準備では、ヤモリの頭幅に合わせた適切なサイズの餌を選び、給餌前24〜48時間、餌用昆虫に栄養価の高い食物を与える栄養強化(ガット・ローディング)を行うとよいでしょう。給餌直前にはカルシウム剤やビタミン剤をまぶす(ダスティング)ことも重要です。
給餌方法としては、浅い皿や専用のフィーダーを使用する方法、ピンセットで餌をつかんでヤモリの前で動かす方法、ケージ内に適量の餌を放して自然な捕食を促す方法などがあります。それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるため、ヤモリの個体差や飼育環境に合わせて最適な方法を選択しましょう。
餌用昆虫の栄養強化と自家繁殖

ガット・ローディングの実践
餌用昆虫の栄養価を高める「ガット・ローディング」は、ニホンヤモリの健康維持に役立つ重要なテクニックです。これは餌用昆虫に栄養価の高い食物を与え、その栄養素を間接的にヤモリに摂取させる方法です。給餌の24〜48時間前から実施し、昆虫用の専用飼料や栄養価の高い野菜・果物を与えます。
効果的なガット・ローディング食材には、ニンジン(ビタミンA豊富)、カボチャ(ビタミンA、カロテン豊富)、緑黄色野菜(各種ビタミン、ミネラル豊富)などの野菜類、リンゴ(水分と繊維質)、バナナ(カリウム、糖分)、オレンジ(ビタミンC)などの果物類、爬虫類用昆虫ダイエットや高カルシウム昆虫フードなどの市販の栄養強化用製品があります。餌用昆虫にカビた食物や農薬のついた野菜を与えないよう注意し、昆虫に与える食物は新鮮なものを使用して定期的に交換しましょう。水分の多い食物は腐敗しやすいため、適切に管理することも重要です。
主要な餌用昆虫の自家繁殖法
餌用昆虫を自家繁殖することで、コスト削減と安定した餌の確保が可能になります。比較的繁殖しやすい餌用昆虫について解説します。
コオロギの繁殖には、換気のある飼育容器(プラスチックケースなど)、産卵用の湿った土や砂、隠れ場所(卵ケースなど)、餌と水分(野菜やコオロギフード)が必要です。温度25〜30℃、湿度50〜60%の環境を維持し、産卵容器に湿った土や砂を入れてメスに産卵させます。産卵後、卵を含む土を別容器に移し、26〜28℃で保温すると、約7〜10日で孵化し、ピンヘッドクリケットが誕生します。コオロギは騒音(鳴き声)が発生し、カニバリズム(共食い)を防ぐため適切な密度と隠れ場所を確保する必要があります。また、定期的な容器の清掃も重要です。
デュビアローチの繁殖には、深めのプラスチック容器、卵ケースや段ボールの重ね置き(隠れ場所)、餌と水分源(野菜や果物、専用フード)、保温用のヒーターが必要です。温度27〜32℃、湿度50〜60%を維持します。メスは生きた幼虫を産むので産卵床は不要で、約1ヶ月で幼虫が誕生し、約4〜6ヶ月で成体になります。定期的に餌と水分を補給することが重要です。デュビアローチはコオロギより騒音が少なく臭いも控えめで、繁殖速度が適度で管理しやすく、栄養価が高く脱走リスクが低いという利点があります。
ミールワームの繁殖には、浅めのプラスチック容器、小麦粉やオートミールなどの基質、水分源(ニンジンやジャガイモのスライス)が必要です。成虫(カブトムシに似た黒い甲虫)を基質に放し産卵させ、温度20〜25℃、低湿度環境を維持します。2〜3ヶ月でライフサイクルが一周し、新たなミールワームが発生します。ミールワームの繁殖は非常に簡単で初心者にも取り組みやすく、ほとんど臭いや騒音がなく、比較的少ないスペースで飼育可能という利点があります。
餌に関するトラブルと解決法

食欲不振の原因と対策
ニホンヤモリの飼育において、餌に関連する問題はよく発生します。食欲不振の主な原因と対策について解説します。
環境要因による食欲不振には、温度問題(気温が低すぎると消化機能が低下し食欲が減退)、ストレス(新環境や頻繁な取り扱いによるストレスで食欲が減退)、隠れ場所の不足(安全を感じられないと警戒して餌を食べない)などがあります。対策としては、昼間25〜30℃、夜間は20℃前後の適温を維持すること、静かな環境を提供し不必要な取り扱いを避けること、適切な隠れ家を複数設置することが重要です。
餌に関する問題としては、不適切な餌のサイズ(大きすぎる餌は食べられず、小さすぎると捕食意欲が湧かない)、餌の動きが不十分(動きの少ない餌に興味を示さない)、餌の多様性不足(同じ餌ばかりだと飽きて食べなくなる)などがあります。対策としては、ヤモリの頭幅に合った適切なサイズの餌を選ぶこと、活発に動く餌を選びピンセットで適度に動かすこと、様々な種類の餌をローテーションで与えることが重要です。
健康上の問題としては、脱皮期(脱皮前後は一時的に食欲が落ちる)、寄生虫感染(持続的な食欲不振、体重減少、元気がない)、代謝性骨疾患(MBD:カルシウム不足による骨格異常や筋力低下、食欲減退)などがあります。対策としては、脱皮期には無理に給餌せず脱皮が完了するのを待つこと、寄生虫感染が疑われる場合は爬虫類専門の獣医師に相談し適切な治療を受けること、MBDが疑われる場合は適切なカルシウム補給とUVB照射、獣医師の診察を受けることが重要です。
偏食への対応と餌のローテーション
偏食への対応方法としては、徐々に新しい餌に慣れさせる(好む餌と新しい餌を混ぜて与え、少しずつ新しい餌の割合を増やしていく)、給餌タイミングの工夫(空腹時に新しい餌を与えると受け入れやすい、活動が活発な時間帯に給餌する)、餌の提供方法を変える(ピンセットで動かす、餌用昆虫の動きを制限する、異なる給餌容器を試す)などがあります。
栄養バランスを保つため、複数の餌をローテーションで与えることが推奨されます。一つの種類の餌だけでは特定の栄養素が不足したり過剰になったりする可能性があるため、週や月単位で異なる種類の餌を組み合わせて与えることで、より自然な食生活に近づけることができます。例えば、週の前半はコオロギ、後半はデュビアローチと交互に与えたり、主食のコオロギにミールワームやハニーワームを補助的に与えたりするなど、様々な組み合わせが可能です。
よくある質問と総まとめ

よくある質問(FAQ)
- Qかつおぶしはニホンヤモリに与えても大丈夫ですか?
- A
かつおぶしを少量、たまに与える程度なら問題ありませんが、主食としては栄養バランスが偏るため不適切です。タンパク質は豊富ですが、カルシウムが不足しているため、定期的に与える場合はカルシウム剤でダスティングすることをお勧めします。
- Q冷凍餌や乾燥餌は生きた餌の代わりになりますか?
- A
栄養価は生餌に劣りますが、保存や管理が容易という利点があります。完全な代替にはなりませんが、生きた餌が入手できない場合の一時的な代用としては使用可能です。栄養価を高めるため、与える前にビタミン剤やカルシウム剤でコーティングすることをお勧めします。
- Q虫以外の餌だけでニホンヤモリを飼育できますか?
- A
理想的ではありませんが、人工餌や果物の一部を与えることはできます。ただし、ニホンヤモリは本来昆虫食であり、主食は昆虫類が望ましいです。昆虫を全く与えない場合、栄養面で不足が生じる可能性が高く、人工餌を使用する場合も爬虫類専用の栄養バランスの整ったものを選ぶ必要があります。
- Q餌用昆虫はどのくらいの期間保存できますか?
- A
昆虫の種類によって異なります。コオロギは室温で1〜2週間、ミールワームは冷蔵庫で数ヶ月、デュビアローチは適切な環境で数ヶ月間生存可能です。保存中も適切な餌と水分を与え、死んだ個体は速やかに取り除きましょう。
- Q赤ちゃんヤモリには何を与えればよいですか?
- A
頭幅に合った小さなサイズの餌(ピンヘッドクリケット、フルーツフライ、小さなミールワーム)が適しています。人工餌を使用する場合は細かく砕いて与えましょう。カルシウム補給は成体よりも重要で、週に3〜4回のダスティングが推奨されます。
- Qバナナなどの果物は餌として適していますか?
- A
果物は主食ではなく補助食として少量与えることができます。バナナやイチジクなどの柔らかい果物は水分とビタミンの補給になりますが、糖分が多いため与えすぎには注意が必要です。週に1〜2回、小さな一切れ程度を与える程度が適切です。
まとめ:バランスの取れた給餌で健康なニホンヤモリを育てる
ニホンヤモリの健康的な飼育において、適切な餌選びと給餌方法は最も重要な要素の一つです。野生のニホンヤモリの食性を理解し、それに近い環境を提供することが理想的です。主食となる生きた昆虫類は、コオロギ、ミールワーム、デュビアローチなど様々な種類をローテーションで与えることで、栄養バランスを保つことができます。
成長段階によって餌のサイズや給餌頻度を調整し、幼体には小さめの餌を頻繁に、成体には適切なサイズの餌を数日おきに与えることが重要です。カルシウム剤やマルチビタミンなどのサプリメントを適切に使用することで、骨の健康や全体的な代謝機能をサポートできます。
餌用昆虫の栄養強化(ガット・ローディング)や自家繁殖にも挑戦してみることで、より質の高い餌を安定して供給することができます。食欲不振や偏食などの問題が発生した場合は、環境要因や餌の問題、健康上の問題を考慮し、適切な対策を講じることが重要です。
ニホンヤモリは適切な環境と栄養が与えられれば10年以上生きる生き物です。日々の観察を怠らず、個体の特性や好みに合わせた餌を提供することで、長く健康的な関係を築いていきましょう。餌選びと給餌方法を工夫することは、飼育者とニホンヤモリの双方にとって楽しく実りある経験となるはずです。