飼育・生態

その猛禽、ノスリ?チュウヒ?空を舞う2大猛禽の見分け方、完全マスター

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  • ノスリは腹部の黒帯が特徴、チュウヒは長い尾と足
  • チュウヒは低空V字飛行、ノスリは高空ホバリング
  • チュウヒは絶滅危惧種で国内約136つがいのみ

野鳥観察をしていると、空を舞う猛禽類の姿に心を奪われることがありますよね。でも、似たような茶色い猛禽を見かけたとき、これはノスリなのかチュウヒなのか、迷ったことはありませんか。両者は見た目が似ているため、初心者の方には区別が難しいかもしれません。

この記事では、ノスリとチュウヒの見分け方を徹底解説します。外見の特徴、飛び方の違い、鳴き声、生息環境など、実践的な識別ポイントをわかりやすくご紹介。これを読めば、フィールドでの識別がぐっと楽になるはずです。

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ノスリとチュウヒの基本情報を知ろう

まず、ノスリとチュウヒは両方ともタカ目タカ科に分類される中型の猛禽類です。日本で観察できる代表的な猛禽で、農耕地や草原、湿地などで見かけることができます。しかし、その生態や特徴には明確な違いがあるんです。

ノスリの学名はButeo japonicusで、「野擦り」という名前の由来は、野原を擦るように低空飛行して獲物を捕らえる様子から来ています。一方、チュウヒの学名はCircus spilonotusで、「宙飛」が名前の由来とされています。面白いことに、実際の飛行スタイルを見ると、この二種の名前が入れ替わっているのではないかという説もあるんですよ。

ノスリは日本全国で比較的よく見られる猛禽類で、農作物を食べるネズミを捕食することから「農地の守り神」とも呼ばれています。個体数は安定しており、バードウォッチング初心者でも観察しやすい種です。

一方、チュウヒは環境省のレッドリストで絶滅危惧ⅠB類に指定されている希少種です。日本野鳥の会の調査によると、国内での繁殖つがい数は約136ペアとされ、日本最少のタカ科鳥類として保護活動が進められています。生息地であるヨシ原が開発により減少していることが、個体数減少の主な原因となっています。

大きさで見分ける:サイズ比較

体の大きさは、ノスリとチュウヒを見分ける重要なポイントの一つです。両者とも中型の猛禽類ですが、チュウヒの方がややスリムで長い印象を受けます。

グラフからわかるように、ノスリの全長は52~57cmで、翼を広げると120~140cmになります。一方、チュウヒは全長48~58cmで、翼開長は113~137cm。チュウヒの方が全長の個体差が大きく、メスは特に大型になります。体重ではチュウヒのメスがやや重い傾向にあります。

両種とも猛禽類の特徴として、メスの方がオスよりも大きくなります。これは、卵を抱いたり巣を守ったりするメスに、より大きな体が有利だからと考えられています。

外見の違いで見分ける7つのポイント

1. 腹部の模様:ノスリの「腹巻」

ノスリの最も特徴的な識別ポイントは、腹部にある黒っぽい帯模様、通称「腹巻」です。この帯は個体差があり、はっきりしたものからまだら状になっているものまで様々ですが、多くの個体で確認できます。チュウヒにはこのような明確な腹部の帯はありません。

2. 翼角の黒斑

飛翔時に翼を広げると、ノスリは翼角部分にこげ茶色の黒斑が目立ちます。これは翼の手首に当たる部分で、ノスリを見分ける重要なポイントです。チュウヒにも翼角の模様はありますが、ノスリほど明瞭ではありません。

3. 尾羽の形状

尾羽の形は遠くからでも識別できる便利なポイントです。ノスリの尾羽は短く扇状で、先端が丸みを帯びています。一方、チュウヒの尾羽は長く直線的で、体に対する尾の比率がノスリより大きいのが特徴です。

4. 腰の白帯

ノスリには腰部分に目立つ白帯があります。飛翔時には四角い白色の腰が確認できることが多いです。チュウヒの場合、腰の白帯は無いか、あってもノスリより狭い帯状になっています。この違いは、飛んでいる鳥を背後から見たときに特に有効な識別ポイントとなります。

5. 顔の色

近距離で観察できる場合、顔の色も手がかりになります。チュウヒの方がノスリよりも顔が黒っぽく見える傾向があります。特にチュウヒは顔盤(顔の輪郭)がやや発達しており、フクロウのような平面的な顔立ちをしています。これは、聴覚を使って獲物を探すための適応と考えられています。

6. 足の長さ

体のプロポーションにも違いがあります。チュウヒはノスリに比べて足が長いのが特徴です。この長い足は、草原や湿地で地上の獲物を捕らえるのに適しています。ノスリはずんぐりした体型に見えるのに対し、チュウヒはスマートで足長な印象を受けます。

7. 体色のバリエーション

両種とも個体による色彩変異がありますが、チュウヒの方がバリエーションが大きいようです。チュウヒのオスは頭から背が灰色で腹が白いものから、全身が黒褐色の暗色型まで様々。メスは全身が茶褐色で、顔の茶色が淡いのが一般的です。ノスリも個体差はありますが、基本的に全体が褐色系でまとまっています。

飛行スタイルで見分ける決定的な違い

野外で猛禽類を観察する際、最も実用的な識別ポイントは飛行スタイルです。ノスリとチュウヒは、飛び方に明確な違いがあります。

チュウヒの低空V字飛行

チュウヒの最大の特徴は、両翼を浅いV字型に保って滑空することです。ヨシ原や草原の上を、風上に向かって低く飛びながら地上の獲物を探します。この飛び方は「低空滑翔」と呼ばれ、ゆっくりとした羽ばたきと滑空を繰り返しながら、地上1~2メートルの高さを飛行します。

風の強い日には、停翔飛行(ホバリング)も行います。チュウヒは垂直離着陸が可能な唯一の猛禽類とも言われ、この特殊な飛行能力から、イギリスの戦闘機ハリアー(Harrier)の名前の由来にもなりました。日本のトヨタ・ハリアーも、このチュウヒをモチーフにしたエンブレムを使用していたことがあります。

ノスリのホバリングと急降下

ノスリは高い空中でホバリング(停空飛翔)をしながら獲物を探すのが特徴です。これを「ウィンドホバリング」と呼び、風を利用して一定の姿勢を保ちます。獲物を見つけると、急降下して捕らえます。

また、繁殖期には「ディスプレイフライト」という求愛飛翔を行います。上空でらせん状に旋回した後、紡錘形やW形の姿勢で急降下し、地上近くで急上昇するという派手な飛行パフォーマンスを見せます。このような飛び方はチュウヒではあまり見られません。

レーダーチャートで見ると、両種の飛行スタイルの違いが一目瞭然です。チュウヒは低空飛行とV字滑翔に特化しているのに対し、ノスリはホバリングと高空飛行、急降下狩りを得意としています。この違いは、それぞれの狩りの方法と密接に関連しています。

生息環境の違いで見分ける

観察場所によっても、どちらの種である可能性が高いか推測できます。ノスリとチュウヒは、好む生息環境が異なるためです。

チュウヒが好む環境

チュウヒは湿地や干拓地、広いヨシ原を主な生息地としています。日本では唯一湿地で繁殖するタカ科鳥類です。河川の河口部、湖沼岸、干拓地など、水辺の広いヨシ原で繁殖し、地上にヨシやススキを積み重ねて巣を作ります。

冬期は全国各地のヨシ原で見られますが、北日本では少なくなります。茨城県の渡良瀬遊水地、千葉県の印旛沼、石川県の河北潟などが有名な観察地です。ヨシ原の上を低く飛んでいる猛禽がいたら、チュウヒの可能性が高いと考えられます。

ノスリが好む環境

ノスリは平地から山地まで幅広い環境に生息しています。繁殖期は山地の林で過ごし、秋冬には暖地や低地に移動します。農耕地、草原、河原などの開けた場所でよく見られ、電柱や木のてっぺんに止まって獲物を探している姿が観察できます。

日本全国に分布しており、南西諸島を除く全国で観察可能です。特に冬季には平地の農耕地で観察しやすくなります。開けた農耕地で高い場所に止まっている猛禽や、上空でホバリングしている猛禽がいたら、ノスリの可能性が高いでしょう。

鳴き声で見分ける方法

鳴き声も重要な識別ポイントです。姿が見えなくても、鳴き声で種類を判断できることがあります。

ノスリの鳴き声

ノスリは「ピーエー」「ピィヨー」「ピィエー」と鳴きます。トビの鳴き声に似ていますが、トビの「ピーヒョロロロ」よりは単調です。比較的よく鳴く鳥で、主に繁殖期に鳴き声を聞くことができます。

チュウヒの鳴き声

チュウヒの鳴き声はオスとメスで異なるのが特徴的です。繁殖期のオスは「ミュー、ミュー」と鳴きながら求愛を行います。餌を運んできたときにオスは「クィークィー」と鳴き、メスは「キキキキキッ」と鋭い声で応答します。警戒時には「ケッ・ケッ・ケッ・ケッ」や「キャ・キャ・キャ」と鳴きます。

チュウヒの鳴き声はバリエーションが豊富で、「ミューア」「ミュー」「キッ、キッ」「キィユ」「ピシィ」など様々な表現がされています。

チュウヒの英語名とその由来

チュウヒの英語名は「Eastern Marsh Harrier(イースタン・マーシュ・ハリヤー)」です。直訳すると「東部の沼地のチュウヒ」という意味になります。

Harrierはチュウヒ属のタカの総称で、世界に約13種が分布しています。ヨーロッパには近縁種の「Western Marsh Harrier(ヨーロッパチュウヒ)」が生息しており、チュウヒはその東アジア版という位置づけです。

このHarrierという言葉は、チュウヒの優れた飛行能力から、様々な製品の名前に使われてきました。最も有名なのは、イギリスのBAE社が開発した垂直離着陸戦闘機「ハリアー」です。チュウヒが垂直に離着陸できる唯一の猛禽類とされることから、この名前が付けられました。

また、トヨタ自動車の高級SUV「ハリアー」も、チュウヒをモチーフにした車名です。初代ハリアーのエンブレムには、チュウヒの姿があしらわれていました。英語でチュウヒ属のタカを意味する「Harrier」から名付けられ、優雅さとスタイリッシュさを表現しています。

北海道でのチュウヒ観察情報

北海道はチュウヒの主要な繁殖地として知られています。日本野鳥の会が2018年から2020年に実施した調査によると、北海道全域で繁殖が確認されたチュウヒは約100つがいで、これは全国の繁殖つがい数136の大部分を占めています。

北海道のチュウヒは夏鳥として、4月上旬から4月下旬にかけて渡来し、11月下旬から12月上旬まで滞在します。主な繁殖地は、サロベツ原野、勇払原野、釧路湿原などの大規模な湿原や、石狩川、十勝川、千歳川などの下流域に広がるヨシ原です。

サロベツ原野は国内最大級のチュウヒ繁殖地として特に重要で、地域ぐるみの保護活動が行われています。しかし、1970年代から2010年までの約40年間で、北海道のチュウヒ繁殖ペア数は半数以下に減少したと推定されており、湿原の開発や乾燥化が主な要因となっています。

ノスリも北海道で繁殖していますが、チュウヒとは異なり留鳥として年間を通して観察できます。北海道では両種を同時に観察できる機会もあり、実際の飛行スタイルや体型の違いを比較学習する絶好の場所と言えるでしょう。

狩りの方法で見分ける

ノスリとチュウヒは、獲物の捕らえ方にも明確な違いがあります。この狩猟スタイルの違いが、それぞれの飛行スタイルや体の特徴と密接に関連しています。

チュウヒの奇襲型ハンティング

チュウヒはヨシ原などの上空を低く飛びながら獲物を探し、植物の物陰を利用して奇襲する方法で狩りを行います。優れた聴覚を持ち、獲物を探すときには視覚だけでなく聴覚も利用しています。顔が平面的で顔盤が発達しているのは、この聴覚ハンティングに適応したためです。

主な獲物はネズミ類で、その他に小鳥、カエル、魚なども捕食します。低空を滑空しながら、草むらの中の小動物の足音や鳴き声を聞き分け、突然急降下して捕らえます。この狩猟スタイルは、開けた高空よりも障害物の多い低空での機動性が求められるため、長い尾と足が有利に働きます。

ノスリの待ち伏せ型ハンティング

ノスリは高い空中でホバリングをしながら獲物を探し、狙いを定めて急降下するのが基本的な狩りのスタイルです。また、電柱や木のてっぺんなど見晴らしの良い場所に止まり、獲物が現れるのを待ち伏せすることも多くあります。

主な獲物はネズミ、モグラ、カエル、小型の鳥などです。開けた農耕地や草原で、地上の獲物を上空から視覚で探知し、急降下して捕らえます。この狩猟スタイルには、高空での安定したホバリング能力と、急降下時のスピードが重要となります。

狩猟スタイルを比較すると、ノスリは飛行高度と視覚依存度、急降下速度が高く、チュウヒは聴覚依存度と奇襲性、機動性が高いことがわかります。それぞれの環境に最適化された狩猟方法を持っているのです。

季節と観察時期の違い

観察しやすい季節も、ノスリとチュウヒでは異なります。この違いを知っておくと、フィールドでの識別がさらに容易になります。

種類 春(3-5月) 夏(6-8月) 秋(9-11月) 冬(12-2月)
ノスリ ◎ 繁殖期
山地で観察
○ 繁殖中
山地で観察
◎ 渡り
平地に移動
◎ 越冬
農耕地で多数
チュウヒ ◎ 渡来
繁殖地到着
◎ 繁殖期
ヨシ原で観察
○ 渡り
南下開始
◎ 越冬
本州のヨシ原

表からわかるように、ノスリは冬季に平地で最も観察しやすくなります。一方、チュウヒは春から夏の繁殖期にヨシ原で、冬季には本州以南のヨシ原で観察できます。北海道のチュウヒは夏鳥ですが、本州以南では冬鳥として越冬する個体が多く見られます。

保全状況と個体数の違い

ノスリとチュウヒの最も大きな違いの一つが、その保全状況です。これは観察の際の心構えにも関わる重要なポイントです。

ノスリの現状

ノスリは日本で最も観察しやすい猛禽類の一つで、個体数は比較的安定しています。環境省のレッドリストにも掲載されておらず、絶滅の危機にはありません。全国各地で観察でき、バードウォッチング初心者でも見つけやすい種です。

農作物を食べるネズミを捕食することから、「農地の守り神」として農家からも歓迎されています。生態系のバランスを保つ上で重要な役割を果たしており、その存在は環境の健全性を示す指標ともなっています。

チュウヒの危機的状況

一方、チュウヒは環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB類に指定され、種の保存法の国内希少野生動植物種にも指定されています。日本野鳥の会の調査によると、全国の繁殖つがい数はわずか約136ペアで、日本最少のタカ科鳥類となっています。

個体数減少の主な原因は、生息地であるヨシ原の開発や乾燥化です。北海道では1970年代から2010年までの約40年間で、繁殖ペア数が半数以下に減少しました。また、本州でも干拓地や河川敷の開発、メガソーラー建設などにより、繁殖地が失われ続けています。

日本野鳥の会やサロベツ・エコ・ネットワークなどの団体が、チュウヒの保護活動を積極的に行っています。生息地の保全、繁殖状況のモニタリング、普及啓発活動など、多方面からの取り組みが進められています。

グラフが示すように、チュウヒは日本で繁殖する希少なタカ科鳥類の中でも最も個体数が少ない種です。チュウヒを観察できたら、それは非常に貴重な体験と言えるでしょう。観察の際は、繁殖を妨げないよう十分な距離を保つことが大切です。

まとめ:ノスリとチュウヒを確実に見分けるコツ

ノスリとチュウヒの見分け方をマスターすれば、野鳥観察がさらに楽しくなります。最後に、フィールドで使える実践的な識別ポイントをまとめましょう。飛行スタイルを最初にチェックし、次に体の特徴を確認するという順序がおすすめです。

ヨシ原の上を低くV字型で滑空していたらチュウヒ、高い空中でホバリングしていたらノスリ。腹部に黒い帯があればノスリ、長い尾と足ならチュウヒ。このように、複数の特徴を組み合わせて判断することで、確実な識別が可能になります。チュウヒは絶滅危惧種ですので、観察できた際は静かに見守り、保全への理解を深めることも大切です。これからのバードウォッチングで、ぜひこの知識を活用してください。

FAQ(よくある質問)

Q
ノスリとチュウヒの最も簡単な見分け方は?
A

最も実用的な見分け方は飛行スタイルです。ヨシ原の上を両翼をV字型にして低く滑空しているのがチュウヒ、高い空中でホバリング(停空飛翔)しているのがノスリです。また、ノスリの腹部には黒っぽい帯模様があり、これも識別の決め手となります。観察場所も重要で、ヨシ原ならチュウヒ、開けた農耕地ならノスリの可能性が高くなります。

Q
チュウヒはなぜ英語でハリヤーと呼ばれるの?
A

チュウヒの英語名は「Eastern Marsh Harrier」で、Harrierはチュウヒ属のタカの総称です。チュウヒは垂直離着陸が可能な唯一の猛禽類とされ、その優れた飛行能力から、イギリスの垂直離着陸戦闘機「ハリアー」の名前の由来にもなりました。また、トヨタ自動車のSUV「ハリアー」も、このチュウヒをモチーフに名付けられています。

Q
北海道ではノスリとチュウヒを両方見られますか?
A

はい、北海道では両種を観察できます。ノスリは留鳥として年間を通して観察可能で、チュウヒは夏鳥として4月から11月頃まで滞在します。北海道は日本最大のチュウヒ繁殖地で、全国の繁殖つがい数約136ペアのうち約100ペアが北海道で繁殖しています。サロベツ原野、勇払原野、釧路湿原などが有名な観察地です。

Q
チュウヒが絶滅危惧種になった理由は?
A

チュウヒが絶滅危惧ⅠB類に指定された主な理由は、生息地であるヨシ原の減少です。干拓地の開発、河川改修、土地改良による乾燥化、メガソーラー建設などにより、繁殖に適したヨシ原が失われ続けています。北海道では1970年代から2010年までの約40年間で、繁殖ペア数が半数以下に減少しました。現在、全国の繁殖つがい数は約136ペアと推定され、日本最少のタカ科鳥類となっています。

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