生き物の世界には、驚くべき適応能力を持つ生物がたくさんいます。その中でも、カメは3億年以上もの進化の歴史を持つ、地球上で最も成功した生物の一つです。
水中でも陸上でも生活できる能力、独特の甲羅による防御システム、そして100年以上も生きられる長寿な特徴など、カメは私たちの想像をはるかに超える能力を持っています。
特に注目すべきは、カメの分類学的な位置づけです。爬虫類でありながら、両生類のような生活様式を持ち、さらには海洋生活にも適応した種も存在します。
このような独特な特徴を持つカメについて、その分類や特徴を詳しく理解することは、生物の進化と適応の素晴らしさを知る上で、とても重要な意味を持っています。
カメの分類と基本的特徴

カメは爬虫類に属する生物
カメは爬虫類の中でもTestudines目(テスチュディネス目)に分類される生物です。カメが爬虫類に分類される主な理由は、四肢を持つ脊椎動物であり、変温性の代謝を持ち、体表が鱗で覆われているためです。
両生類と異なり、カメは水分を通さない丈夫な皮膚を持ち、肺呼吸によって酸素を取り入れます。また、カメの卵は陸上に産み付けられ、殻に覆われているという特徴があります。
甲羅と4本の肢を持つ爬虫類の特徴
カメの最も特徴的な構造は、その甲羅です。甲羅は背甲(キャラペース)と腹甲(プラストロン)、そしてそれらを接続するブリッジから構成されています。この骨格構造は、カメの内臓を保護する役割を果たしています。
カメの甲羅は、実は肋骨や脊椎、鎖骨が融合して形成された特殊な骨格です。表面は角質性の甲板(スキュート)で覆われており、これらは継続的に新しい層が下から形成されていきます。
現存する約300種の生息環境
現在、世界中で350種以上のカメが確認されています。これらのカメは、南極大陸を除く世界中のさまざまな環境に適応して生息しています。カメは大きく3つのグループに分けられます:
種類 | 主な生息環境 | 特徴 |
---|---|---|
カメ(タートル) | 水中 | 主に海や淡水に生息 |
リクガメ(トータス) | 陸上 | 完全な陸上生活 |
イシガメ(テラピン) | 両生 | 水中と陸上の両方で生活 |
潜頚亜目と曲頚亜目の違い
カメは首の折りたたみ方によって、2つの主要なグループに分類されます。すべてのカメは8個の頸椎を持っていますが、その使い方が異なります。
潜頚亜目(クリプトディラ)は、首を垂直に折りたたんで甲羅の中に引き込むことができます。これは「隠れ首」という意味で、陸ガメや海ガメ、ハコガメなどが含まれます。
一方、曲頚亜目(プレウロディラ)は、首を横に曲げて頭部を甲羅の側面に沿って収納します。この特徴から「側頸」とも呼ばれ、頭部は完全には隠れませんが、甲羅の張り出しが保護の役割を果たしています。
これらの違いは、首の骨格構造の違いに起因します。曲頚亜目の頸椎は断面が細く、1つ以上の骨が上下両面で凸状になっているという特徴があります。
カメと他の動物の分類の違い

爬虫類と両生類の違いを理解する
カメを含む爬虫類と両生類は、一見似ているように見えますが、その生態や特徴には大きな違いがあります。爬虫類は完全な陸上生活に適応した生物であり、両生類は水中と陸上の両方で生活する生物です。
爬虫類の卵は硬い殻や革質の殻で覆われており、陸上で産卵されます。これに対して両生類の卵はゼリー状の柔らかい膜に包まれ、必ず水中に産み付けられます。また、両生類は幼生期に変態を経て成体になりますが、爬虫類は孵化した時点で親の小型版として生まれます。
変温動物としての特徴
カメを含む爬虫類と両生類は、どちらも変温動物(外温動物)として知られています。体温を外部環境に依存するため、活動量は周囲の温度に大きく影響されます。暖かい環境では活発に活動し、寒い環境では活動が鈍くなる特徴があります。
特徴 | 爬虫類 | 両生類 |
---|---|---|
体温調節 | 日光浴や日陰での休息で調整 | 水中と陸上の移動で調整 |
活動時期 | 温暖期に活発 | 湿潤期に活発 |
冬季対応 | 冬眠による乗り切り | 水中越冬が一般的 |
呼吸方法の特徴
呼吸方法においても、両者には顕著な違いがあります。爬虫類は生涯を通じて肺呼吸のみを行いますが、両生類は皮膚呼吸と肺呼吸を併用します。カメなどの爬虫類は、肋骨や体腔の筋肉を使って呼吸を行い、効率的な肺呼吸システムを発達させています。
爬虫類の呼吸は体腔の容積変化によって行われ、肋骨を動かす筋肉の収縮によって空気の出し入れを制御します。ただし、カメは甲羅との融合により肋骨を動かすことができないため、特殊な横隔膜様の筋肉を使って呼吸を行います。
皮膚構造の違い
皮膚構造は、両者を区別する最も重要な特徴の一つです。爬虫類の皮膚は乾燥に強い鱗で覆われており、水分保持に優れています。カメの場合、甲羅も特殊化した皮膚構造の一部です。
爬虫類の鱗は、ベータケラチンとアルファケラチンという2種類のタンパク質で構成されています。これらは層状に配置され、外側のベータケラチンは硬さを、内側のアルファケラチンは柔軟性を提供します。また、鱗と鱗の間には、体の柔軟な動きを可能にする関節部分があります。
一方、両生類の皮膚は薄く多孔質で、常に湿った状態を保つ必要があります。この特徴は、皮膚呼吸を可能にする一方で、乾燥に対して脆弱であり、陸上での生活時間を制限する要因となっています。また、両生類の皮膚は環境汚染物質に対して非常に敏感で、生態系の健康状態を示す指標としても注目されています。
代表的なカメの種類と特徴

海に棲むカメの特徴
ウミガメは、かつて陸上に生息していたカメが海洋環境に適応した特殊な種です。海中での生活に適応するため、四肢はヒレ状に進化し、甲羅は水の抵抗を受けにくい流線型になっています。
日本周辺の海域では6種のウミガメが確認されており、そのうちアカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの3種が日本の砂浜で産卵することが知られています。アカウミガメは外洋性で、主に貝類やヤドカリなどの硬い餌を好み、強い顎が特徴です。一方、アオウミガメは沿岸域に生息し、主に海藻や海草を食べる草食性です。
陸上に棲むカメの特徴
リクガメは、完全な陸上生活に適応したカメの仲間です。大地を踏みしめやすいように太く短い肢を持ち、高くドーム状の甲羅を持つのが特徴です。体温調節のために日光浴を行い、草原や荒れ地、砂漠などの乾燥地に多く生息しています。
特徴 | リクガメ | ウミガメ |
---|---|---|
肢の形態 | 太く短い | ヒレ状 |
甲羅の形 | ドーム状 | 扁平・流線型 |
主な生息地 | 陸上 | 海洋 |
食性 | 主に草食 | 種により異なる |
淡水に棲むカメの特徴
淡水ガメは、池や川などの淡水域に生息するカメの総称です。日本の淡水域には、在来種のニホンイシガメ、クサガメ、ニホンスッポンと、外来種のミシシッピアカミミガメが主に生息しています。
これらの淡水ガメは、半水生の生活を送るものが多く、水中での生活と陸上での活動の両方に適応しています。特に日光浴は、体温調節やビタミンD3の生成、皮膚病の予防など、健康維持に重要な役割を果たしています。
日本で見られる主な種類
日本の淡水域で見られる代表的なカメについて、2023年の全国調査では興味深い結果が報告されています。アカミミガメが全体の55.3%を占め最も多く、次いでクサガメが17.8%、スッポンが13.7%、ニホンイシガメが8.8%という割合でした。
ニホンイシガメは日本固有種で、水質悪化に敏感な性質を持ち、清流を好みます。一方、クサガメは汚水にも比較的強く、平地の河川や用水路、ため池などに広く生息しています。スッポンは完全な水生で、魚類や水生昆虫、甲殻類などを捕食する肉食性のカメです。
これらの在来種に加えて、近年では外来種のアカミミガメ(ミドリガメ)が日本の水域で優占種となっています。この種は北米原産で、ペットとして持ち込まれた個体が野生化し、在来種の生息を脅かす要因となっています。
よく混同される動物の分類

ワニは爬虫類の特徴
ワニは爬虫類網ワニ目に属する生物であり、現生の動物の中では鳥類と最も近縁な仲間として知られています。ワニの歯の特徴として、一生の間に何度も生え変わる「多生歯性」と、すべての歯がほとんど同じ円錐形をしている「同形歯性」があります。
ワニの捕食方法は非常に特徴的です。獲物を食いちぎって丸飲みにする際、大きな獲物の場合は体を回転させて引きちぎるという独特の方法を用います。変温動物であるワニは、一度大きな獲物を捕食すれば、約1年間は無給餌でも生存可能という驚くべき特徴を持っています。
トカゲと爬虫類の関係
トカゲは爬虫類の代表的な生物の一つです。爬虫類としての特徴である鱗で覆われた体表や、変温性の代謝機能を持っています。トカゲは完全な陸上生活に適応しており、硬い殻や革質の殻で覆われた卵を陸上に産み付けます。
イモリは両生類の特徴
イモリは両生類に属する生物で、フグと同じテトロドトキシンという毒を持つことが特徴的です。腹部が赤色やオレンジ色を呈しているのは「警告色」と呼ばれる防衛的な特徴です。イモリの産卵時期は4月から7月で、6月にピークを迎えます。卵は1粒ずつ産み付けられ、17日から27日程度で孵化します。
特徴 | イモリ | サンショウウオ |
---|---|---|
肌の状態 | ざらざら | ツルツル |
腹部の色 | 赤い個体が多い | 赤くない |
生息地 | 水辺 | 陸地 |
産卵方法 | 1粒ずつ | 卵塊で産む |
ペンギンは鳥類の特徴
ペンギンは鳥類の中でも特に高い潜水能力を持つ生物です。翼は板状に平たく進化し、水中で羽ばたくように上下に動かして泳ぐという特徴があります。現在、世界には18種類のペンギンが生息しており、その中で最大のコウテイペンギンは体長112~115cmにも達します。
ペンギンの翼は一般的な鳥類とは異なり、ウロコのような細い羽根で覆われており、「フリッパー」と呼ばれています。フリッパーの内部には厚くて硬い板状の骨が存在し、この構造により水中での効率的な推進力を得ることができます。
また、ペンギンの足の構造も特徴的です。一見短足に見えますが、実際には足の大部分が体内に隠れており、見えている部分は人間でいう足首から先(ふしょ骨)の部分だけです。この構造により、寒冷地での体温維持を効率的に行うことができます。
動物の分類に関するよくある誤解

水中生活と両生類の違い
動物の生息環境と分類の関係について、多くの誤解が存在します。水中で生活するからといって、必ずしも両生類というわけではありません。たとえば、ウミガメは水中で多くの時間を過ごしますが、爬虫類に分類されます。これは、その生理学的特徴や進化の過程に基づいているためです。
両生類の定義において重要なのは、生活環の中で水中と陸上の両方の環境を必要とすることです。特に初期の発生段階では、ほとんどの両生類が水中で幼生期を過ごし、その後metamorphosis(変態)を経て陸上生活が可能な成体へと変化します。
卵生と胎生の区別
生殖方法による分類についても、しばしば誤解が見られます。卵生(おviparous)、胎生(viviparous)、卵胎生(ovoviviparous)の3つの主要な生殖様式があります。
卵胎生は、卵生と胎生の中間的な特徴を持ちます。卵胎生動物は卵を産みますが、その卵は母体内で発生し、孵化まで体内で保護されます。例えば、一部のサメやエイ、ヘビなどがこの方式を採用しています。
体温調節の仕組み
体温調節の仕組みについても、「冷血動物」「温血動物」という表現は科学的には正確ではありません。より正確には、外温性(ectothermic)と内温性(endothermic)という区分が使用されます。
外温性動物は、環境温度に依存して体温を調節します。これは「冷血」という表現で知られていますが、実際には体温が常に低いわけではなく、環境温度に応じて変化します。一方、内温性動物は代謝活動によって体温を一定に保つ能力を持っています。
皮膚の特徴による分類
皮膚の特徴は動物分類の重要な指標の一つですが、これについても誤解が多く存在します。爬虫類の鱗、両生類の湿った皮膚、哺乳類の毛皮など、それぞれの皮膚構造は、その生活環境への適応を反映しています。
両生類の皮膚は、呼吸機能も担う特殊な構造を持っています。湿った、透過性の高い皮膚を通じて酸素を取り入れることができます。一方、爬虫類の鱗は水分損失を防ぐ防水機能を持ち、乾燥した環境での生活を可能にしています。
分類 | 皮膚の特徴 | 主な機能 |
---|---|---|
両生類 | 湿潤で透過性が高い | 呼吸補助、水分吸収 |
爬虫類 | 乾燥した鱗状 | 水分保持、保護 |
哺乳類 | 毛皮で覆われている | 体温維持、保護 |
よくある質問

- Qカメはなぜ水中と陸上の両方で生活できるのか
- A
カメが水中と陸上の両方で生活できる理由は、長い進化の過程で獲得した特殊な適応能力にあります。カメは呼吸、体温調節、運動機能において、両環境に適応するための独自の特徴を持っています。
呼吸に関して、カメは肺呼吸を基本としながら、水中での酸素摂取も可能です。特に淡水ガメは、クロアカ(総排出腔)の特殊な血管を通じて水中の酸素を取り込むことができます。この能力により、長時間の水中滞在が可能となっています。
体の構造面では、多くの種が水かきのある足を持ち、これにより水中での効率的な推進力を得ることができます。同時に、陸上でも歩行可能な爪も備えており、これによって地上での移動も可能となっています。
- Qカメの寿命はどのくらいか
- A
カメの寿命は種によって大きく異なりますが、一般的に水生のカメは40-50年、陸生のカメは100年以上生きる種も存在します。具体的な寿命は以下の通りです:
種類 平均寿命 アカミミガメ 25-35年 マップタートル 15-25年 ウッドタートル 40-55年 ギリシャリクガメ 100年以上 レオパードリクガメ 100年以上 海ガメの場合、リーサーバックウミガメは約90年、アカウミガメは約63年という推定寿命が報告されています。
- Qカメの甲羅は体の一部なのか
- A
カメの甲羅は、単なる外付けの防具ではなく、体の骨格系統の一部として完全に統合された構造です。甲羅は背骨、肋骨、胸骨が進化の過程で融合して形成されたものであり、約50個の骨が結合しています。
甲羅は主に2つの部分から構成されています。背中側の甲羅(キャラペース)と腹側の甲羅(プラストロン)です。これらは「ブリッジ」と呼ばれる部分で接続されており、内部の臓器を保護する役割を果たしています。
- Q海ガメと陸ガメの違いは何か
- A
海ガメと陸ガメには、生息環境に応じた明確な違いがあります。最も顕著な違いは、体の形態と運動能力にあります。
海ガメは流線型の甲羅と、ヒレ状に進化した四肢を持ち、水中での効率的な遊泳を可能にしています。一方、陸ガメはドーム状の重い甲羅と、歩行に適した太い足を持っています。
- Qカメは冬眠するのか
- A
カメは冬季に「ブルメーション」と呼ばれる特殊な冬眠状態に入ります。これは完全な睡眠ではなく、代謝を極端に低下させた休眠状態です。
水生のカメは、池や湖の底の泥の中で冬を過ごします。この時、心拍数は数分に1回程度まで低下し、クロアカ呼吸によって水中の酸素を取り込みます。陸生のカメは地中に深く潜って冬を越します。冬眠中のカメは凍結を避けるため、凍結深度よりも深い場所を選んで冬眠します。
まとめ:カメの分類と特徴

カメは、生物学的な分類において爬虫類に属する生物です。その特徴的な甲羅は、実は背骨や肋骨が進化の過程で変化したものであり、単なる外殻ではなく体の一部として完全に統合された構造となっています。
世界中には350種以上のカメが生息しており、海洋、淡水、陸上とさまざまな環境に適応して生活しています。特に注目すべきは、水中と陸上の両方で生活できる優れた適応能力です。これは、特殊な呼吸システムと効率的な体温調節機能によって可能となっています。
日本の水域では、在来種のニホンイシガメやクサガメ、スッポンなどが生息していますが、近年では外来種のアカミミガメが優占種となっています。この状況は生態系の保全という観点から重要な課題となっています。
カメの寿命は種によって大きく異なり、水生のカメで40-50年、陸生のカメでは100年以上生きる種も存在します。このような長寿命は、カメが持つ効率的な代謝システムと、環境への優れた適応能力によるものです。