参照:日本政策金融公庫
ドッグラン経営の基礎知識と市場動向

ペット市場は年々拡大を続け、2023年の日本国内のペット関連市場は約1兆6,000億円という規模に達しています。特にコロナ禍以降、ペット飼育世帯が約13%も増加し、若年層や単身世帯でのペット飼育も急増しています。この中でドッグランは、愛犬家たちの「安全に犬を遊ばせたい」というニーズに応える重要な施設として注目を集めています。
現在、全国には約500〜600か所のドッグランが存在し、特に都市部での需要が高まっています。ドッグラン経営は、純粋な愛犬家のための場所提供というだけでなく、様々な関連サービスとの組み合わせにより、安定した収益を生み出すビジネスモデルへと進化しています。
「犬好きだからドッグランを始めたい」と考える方も多いでしょう。しかし、情熱だけでは持続可能なビジネスにはなりません。適切な計画と戦略が成功への鍵です。
ドッグラン経営の種類と初期投資
ドッグラン経営には主に屋外型、室内型、カフェ併設型などがあります。屋外型は500㎡〜5,000㎡程度の広さで、土地代を除いて500万円〜2,000万円程度の初期投資が必要です。自然を活かした開放的な空間を提供できる一方、天候に左右されるという特徴があります。
室内ドッグラン経営は100㎡〜300㎡程度の広さで、内装工事を含めて1,000万円〜3,000万円程度の初期投資が必要です。天候に左右されず、年間を通して安定した運営が可能である点が大きな強みです。
カフェ併設型は店舗部分50㎡〜100㎡、ラン部分100㎡〜500㎡程度の広さで、1,500万円〜4,000万円程度の初期投資が必要です。飲食収入とドッグラン利用料の二本立てで収益性が高い傾向があります。
あなたの資金力、立地条件、そして運営の専門性によって最適な選択は変わってきます。次のセクションでは、ドッグラン経営を始めるための具体的なステップと必要な資金計画について詳しく見ていきましょう。
市場調査とビジネスプラン策定

成功するドッグラン経営の第一歩は、徹底した市場調査と綿密なビジネスプラン策定にあります。いきなり始めて失敗したというケースの多くは、この段階での準備不足が原因です。
地域のニーズとターゲット顧客の分析
まず開業予定地域の犬の登録頭数と種類の傾向、周辺の競合施設の数と特徴、地域住民の平均年収や生活スタイル、愛犬家が集まる公園や施設の利用状況などを調査しましょう。若いファミリー層が多い地域では週末の利用が中心になる傾向があり、シニア層が多い地域では平日の昼間の需要が見込めるでしょう。
ドッグラン経営を田舎で成功させるには、観光資源との連携や広大な自然を活かした差別化戦略が有効です。実際に長野県のある山間部では、観光施設と連携したドッグランが週末には県外からも多くの利用者を集めています。
収支計画と資金調達
ドッグラン経営の現実的な収支計画を立てるには、初期投資とランニングコストを詳細に検討する必要があります。初期投資には土地取得費用、造成工事、フェンス設置、給水設備、休憩所・トイレ設置、看板・照明、備品などが含まれます。ランニングコストには水道光熱費、人件費、メンテナンス費、保険料、広告宣伝費などが含まれます。
ドッグラン経営の年収について現実的な見通しを持つことも重要です。小規模なドッグランの場合、オーナーの年収は初年度で200万円〜300万円程度、軌道に乗った後でも400万円〜600万円程度が一般的です。大規模施設や複合サービスを展開できれば1,000万円以上も可能ですが、初期段階では控えめな見積もりで計画するべきでしょう。
資金調達方法としては、自己資金(理想的には総投資額の30%以上)、日本政策金融公庫の新創業融資制度(最大3,000万円まで融資可能)、クラウドファンディング(地域密着型プロジェクトとして300万円〜500万円の調達に成功した例あり)、地方自治体の補助金(空き地活用や観光振興の一環として、最大500万円程度)などがあります。
実際に山梨県のあるドッグラン経営者は「土地は親族から借り、設備投資は政策金融公庫からの融資と自己資金で賄い、初期投資を800万円に抑えることができた」と語っています。
許認可申請と法的要件

ドッグラン経営を始める際には、様々な法的手続きや許認可が必要になります。後から問題が発生して営業停止といった事態を避けるため、開業前に以下の点を確認しましょう。
必要な開業手続きと許認可
事業形態の決定と登録では、個人事業主の場合は開業届を税務署に提出し、法人の場合は会社設立登記(資本金、定款作成、登記申請等)が必要です。土地利用に関する許認可としては、農地転用(農地をドッグランに転用する場合、農地法第4条・第5条に基づく許可が必要)、開発許可(都市計画区域内で1,000㎡以上の開発行為には都市計画法第29条に基づく許可が必要)、市街化調整区域での制限(原則として開発が制限されるが、地域振興に資する施設として認められる場合もある)などがあります。
建築・設備関連では、建物を建てる場合の建築確認申請、収容人数が多い場合の消防法に基づく防火管理者の選任、給排水設備の確認が必要です。また、犬を一時的に預かるサービスを提供する場合は、保健所への動物取扱業(保管業)の登録が必要です。
ドッグラン経営許可に関して特に注意したいのが近隣住民への配慮です。実際に埼玉県のあるドッグラン経営者は「開業前に近隣住宅への説明会を開催し、騒音対策として防音フェンスを設置することで理解を得られた」と話しています。
必要な保険と安全対策
ドッグラン経営にあたっては、施設賠償責任保険(年間10万円〜30万円程度)、ペット賠償責任保険(年間5万円〜15万円程度)、事業者向け火災保険(年間5万円〜20万円程度)などへの加入が強く推奨されます。保険は無駄な出費と考えがちですが、実際に東京都のあるドッグラン経営者は「利用犬同士のトラブルで一方が大怪我を負い、治療費80万円と慰謝料50万円を支払うことになったが、保険に加入していたため実質負担は免責金額の5万円のみだった」と語っています。
近隣対策と環境配慮としては、騒音対策(防音フェンスの設置、営業時間の制限)、臭気対策(定期的な清掃、消臭設備の導入、排水処理の徹底)、駐車場対策(十分な駐車スペースの確保)などが重要です。ドッグラン経営を田舎で行う場合、広い土地が確保しやすい反面、自然環境や農業との共存が課題になることもあります。岐阜県のあるドッグラン経営者は「近隣の農家と良好な関係を築くため、定期的に農産物を購入して店内で販売するなど、Win-Winの関係を構築している」と話しています。
収益モデルと運営戦略

ドッグラン経営を単なる趣味ではなく持続可能なビジネスとして成功させるには、適切な収益モデルの構築と効果的な運営戦略が不可欠です。ドッグラン経営の年収を安定させ、利益を最大化するための具体策を見ていきましょう。
効果的な料金設定と会員制度
ドッグランの基本的な収益源は利用料ですが、その設定方法によって大きく収益が変わります。一般的な料金体系としては、ビジター利用(犬1頭につき500円〜1,500円/回)、時間制(30分200円〜、1時間500円〜など)、月会員(3,000円〜8,000円/月)、年会員(30,000円〜80,000円/年)などがあります。会員制度には安定した収入源の確保、顧客との継続的な関係構築、リピート来店による口コミ効果などのメリットがあります。
ドッグラン経営の年収を安定させるには、会員数の確保が鍵となります。例えば、月会費5,000円の会員が100名いれば、月額50万円の安定収入が見込めます。神奈川県のあるドッグラン経営者は「開業から6ヶ月で会員100名を達成し、固定収入を確保できたことが経営安定化の転機だった」と語っています。
収益源の多角化戦略
ドッグラン単体では収益に限界があるため、関連サービスとの組み合わせが重要です。飲食サービスとしてドッグカフェを併設すれば、全体収益の30%〜50%、利益率20%〜30%が見込めます。物販ではペットフード・おやつの販売、首輪・リード・アクセサリーの販売、オリジナルグッズの開発などがあり、全体収益の10%〜20%、利益率30%〜50%が期待できます。付加サービスとしては、トリミングサービス(年商1,000万円〜2,000万円の可能性)、しつけ教室(1回2,000円〜5,000円/頭)、一時預かりサービス(1時間1,000円〜)、イベント開催(しつけセミナー、犬の運動会など)があります。
実際に室内ドッグラン経営に成功している大阪のある経営者は「ドッグランの利用料だけでは月商100万円程度だが、トリミングサービスとカフェを併設することで月商300万円以上を安定して達成している」と成功事例を語っています。
デジタル化による業務効率化
デジタルツールを活用した運営効率化も重要なポイントです。会員管理システム(月額1万円〜3万円程度)では会員情報管理、来店履歴、ワクチン接種状況確認などの機能があり、人件費削減や顧客管理の効率化につながります。予約システム(月額5,000円〜2万円程度)ではオンライン予約、自動リマインダー、キャンセル管理などの機能があり、予約業務の効率化、混雑緩和、顧客満足度向上に役立ちます。SNSマーケティングでは、Instagramでの定期投稿(週3回以上)、Facebookでのコミュニティ形成、LINE公式アカウントでの会員向け特別情報の配信などが効果的です。
ドッグラン経営ブログも集客に効果的なツールです。実際に北海道のあるドッグラン経営者は「毎週ブログで犬たちの様子を紹介し、SEO対策も行ったことで、月間5,000PVを達成し、新規顧客の20%がブログ経由で来店している」と語っています。
失敗事例と対策

どんなビジネスにも失敗リスクはつきものです。ドッグラン経営においても、多くの先駆者が様々な困難に直面してきました。ここでは実際のドッグラン経営失敗事例を分析し、その対策を考えていきます。
立地選定と集客の失敗
東京都郊外でドッグランを開業したAさんは、「土地代が安いから」という理由だけで最寄り駅から徒歩30分の場所を選んだところ、想定の30%程度しか集客できず、1年で閉店することになりました。このような失敗を防ぐためには、車でのアクセスが便利(主要道路から5分以内)であること、駐車場の十分な確保(最低10台以上)、公共交通機関からのアクセスも考慮すること、競合施設との距離(理想は車で30分圏内に競合がない)などに注意する必要があります。
神奈川県のBさんは高級感あるドッグランを開業しましたが、周辺住民の所得層とのミスマッチにより利用者が集まらず、コンセプト変更を余儀なくされました。このような失敗を防ぐためには、事前の徹底した市場調査(周辺の所得層、犬の飼育状況など)、段階的な投資と柔軟な方針変更の余地を残すこと、複数のターゲット層を想定したサービス設計などが重要です。
コスト管理と資金計画の失敗
大阪府のCさんは、初期費用を甘く見積もったため、開業直後に資金が底をつき、十分なマーケティング活動ができないまま苦戦を強いられました。このような失敗を防ぐためには、初期投資の20%〜30%程度を予備費として確保すること、最低6ヶ月分の運転資金を確保すること、収支計画は最も悲観的なシナリオで作成することなどが重要です。
愛知県のDさんは、水道光熱費や人件費、メンテナンス費用を大幅に低く見積もったため、黒字になる前に資金ショートしてしまいました。このような失敗を防ぐためには、水道光熱費(月10万円〜30万円)、人件費(スタッフ1人あたり月20万円〜)、メンテナンス費(年間売上の5%〜10%)などのコストを現実的に見積もり、開業後3ヶ月は想定の1.5倍のコストを見込むことが大切です。
室内ドッグラン特有の課題
福岡県の室内ドッグラン経営者Eさんは、換気設備の不足から臭気問題が発生し、クチコミサイトでの評価が急落して集客に苦戦しました。このような失敗を防ぐためには、適切な換気設備の導入(初期費用100万円〜300万円)、消臭システムの設置(オゾン発生装置など)、清掃マニュアルの作成と徹底(最低1日3回の清掃)、抗菌・防臭機能のある床材の選定(1㎡あたり1万円〜3万円)などが重要です。
東京都の室内ドッグラン経営者Fさんは、大型犬と小型犬の区分けを行わなかったことから、犬同士のトラブルが頻発し、会員の退会が相次ぎました。このような失敗を防ぐためには、大型犬・小型犬エリアの明確な分離、利用規約の明確化と入場時の説明徹底、スタッフの適切な配置と監視体制の構築、問題行動のある犬への対応ルールの策定などが重要です。
マーケティング不足による失敗
千葉県のGさんは「良い施設を作れば自然と人は来る」と考え、マーケティングに投資しなかったため、開業当初の集客に大きく苦戦しました。このような失敗を防ぐためには、開業前から地域向けの告知活動(チラシ配布、地域情報誌への広告)、SNSの活用(Instagram週3回以上の投稿、地域ハッシュタグの活用)、地域イベントへの参加(ペット関連イベント、地域のお祭りなど)、既存顧客を活用した紹介キャンペーン(紹介割引など)などが効果的です。
これらの失敗事例から学ぶべき最大のポイントは、「十分な準備と現実的な計画」の重要性です。情熱だけでなく、冷静なビジネス感覚を持ってドッグラン経営に臨むことが成功への第一歩となるでしょう。
よくある質問とまとめ

ドッグラン経営に関するよくある質問
- Q個人でもドッグラン経営は可能ですか?
- A
はい、十分可能です。全国のドッグランの約60%が個人経営で、特に初期投資を抑えた小規模経営から始めるケースが多いです。個人経営のメリットとしては、意思決定の速さや地域との密接な関係構築が容易である点が挙げられます。実際に広島県の個人経営者Hさんは「最初は平日は自分一人で運営し、週末のみアルバイトを雇うことで人件費を抑えながら軌道に乗せることができた」と語っています。
- Qドッグラン経営者の年収はどれくらいですか?
- A
ドッグラン経営の年収は規模や地域、併設サービスによって大きく異なります。一般的な目安としては、小規模(年商500万円〜1,000万円)ではオーナー年収200万円〜400万円、中規模(年商1,000万円〜3,000万円)ではオーナー年収400万円〜600万円、大規模(年商3,000万円以上)ではオーナー年収600万円〜1,000万円以上となっています。成功している経営者の多くは、ドッグラン単体ではなく、カフェやトリミング、ペットホテルなど複数の収益源を持っている傾向があります。
- Q田舎でのドッグラン経営は成功する可能性がありますか?
- A
ドッグラン経営を田舎で成功させるには、都市部とは異なる戦略が必要です。観光資源との連携(観光地に近い立地を選び、観光客をターゲットにする)、広大な自然環境を活かす(都市部にはない広々とした空間を強みにする)、地域特産品との連携(地元の特産品を取り入れたカフェメニューやイベント開催)、宿泊施設との提携(ペット同伴可能な宿泊施設と提携し相互送客)などのポイントを押さえることで成功確率が高まります。長野県の山間部でドッグランを経営するIさんは「地元農家の野菜を使ったドッグカフェメニューと、近隣のペット可ホテルと提携したパッケージプランが人気で、週末は遠方からも多くの利用者が訪れる」と成功事例を語っています。
- Qフランチャイズでのドッグラン経営は選択肢になりますか?
- A
はい、近年はドッグラン経営者募集を行うフランチャイズチェーンも増えています。一般的な条件としては、加盟金100万円〜300万円、ロイヤリティ月額5万円〜15万円または売上の3%〜8%、初期投資総額2,000万円〜5,000万円(物件取得費を除く)などがあります。フランチャイズのメリットは、ブランド力を活かした集客や、運営ノウハウの提供を受けられる点です。一方で、自由度の制限や固定費の増加というデメリットもあります。
- Q室内ドッグラン経営と屋外ドッグラン経営、どちらがおすすめですか?
- A
それぞれメリット・デメリットがあります。室内ドッグラン経営は天候に左右されない、年中営業可能、高単価設定が可能というメリットがある一方、初期投資が大きい、維持費(空調・光熱費)が高い、スペースの制約というデメリットがあります。屋外ドッグラン経営は広いスペースの確保が可能、初期投資を抑えられる可能性があるというメリットがある一方、天候に左右される、冬季や雨天時の収入減少、季節変動が大きいというデメリットがあります。理想的なのは両方を併設することですが、初期段階では資金力や立地条件に合わせて選択し、将来的な拡張を視野に入れるとよいでしょう。
- Qドッグラン経営に必要な人員体制はどうすればいいですか?
- A
規模によって必要な人員は異なります。小規模(100㎡前後)では1〜2名(オーナー含む)、中規模(300㎡前後)では3〜5名、大規模(500㎡以上)では6名以上が目安です。特に開業初期は固定費を抑えるため、繁忙期(週末・祝日)と閑散期(平日)でシフトを調整する、家族の協力を得る、パート・アルバイトの効果的な活用、多能工化(一人で複数の役割をこなせるようにする)などの工夫も検討すべきです。
ドッグラン経営成功のための行動計画
本記事では、ドッグラン経営の基礎知識から開業準備、収益モデル、失敗事例まで幅広く解説してきました。最後に、ドッグラン経営を成功させるための行動計画をまとめます。
ドッグラン経営の成功は、愛犬家としての情熱と経営者としての冷静さのバランスにかかっています。市場のニーズを的確に捉え、適切な投資と運営を行いながら、顧客との信頼関係を築いていくことが、長期的な成功への道です。本記事が、これからドッグラン経営に挑戦する方の一助となれば幸いです。