キツネのふわふわの毛並みや愛らしい表情に魅了され、「ペットとして飼えないかな?」と考えたことはありませんか?映画やアニメに登場するキツネを見て、そんな疑問を抱いた方も多いでしょう。この記事では、キツネをペットとして飼うことが可能かどうか、条件やリスク、そして現実的な選択肢について詳しく解説します。
参照:環境省_特定動物(危険な動物)の飼養又は保管の許可について [動物の愛護と適切な管理]

キツネの基本知識とペットとしての可能性

結論から言うと、日本でキツネをペットとして飼うことは法律上可能です。キツネは「特定動物」(人に危害を加えるおそれのある危険な動物)に指定されておらず、特別な許可なしに飼育することができます。しかし、法律上可能だからといって、現実的に誰でも簡単に飼えるわけではありません。
キツネの種類と特徴
キツネはネコ目(食肉目)イヌ科イヌ亜科に分類される動物です。日本に生息している野生のキツネは主にホンドギツネ(本州、四国、九州)とキタキツネ(北海道と北方領土)の2種類です。ペットとして飼われる可能性があるのは、これらに加えてアカギツネ、ホッキョクギツネ、ギンギツネ、そして後述するフェネックなどがあります。
キツネは細長い顔、直立した三角形の耳、ふさふさとした尻尾が特徴的で、野生下での寿命は約5年、飼育下では約10年程度です。雑食性で小動物から果実、植物まで様々なものを食べます。夜行性で活発に動き、「コンコン」という独特の鳴き声を持っています。犬に似た見た目ですが、性質や行動は大きく異なり、野生動物としての本能や習性を強く残しています。
ペットとしてのキツネの現実
キツネをペットとして飼うには、いくつかの重要な条件や課題があります。一般的なペットショップではほとんど販売されておらず、入手できたとしても60〜100万円という高価格となります。また、特殊な飼育環境の整備が必要で、エキノコックスなどの寄生虫リスクもあります。さらに、犬や猫と違って飼育のノウハウがまだ確立されていないことも課題です。「法律上飼えるけれど、現実的には難しい」というのが、キツネをペットにする際の現状と言えるでしょう。
エキノコックス感染のリスクと対策

キツネをペットとして飼う際に最も注意が必要なのが、エキノコックスという寄生虫のリスクです。
エキノコックスとは何か
エキノコックスは主に北海道のキツネが保有している寄生虫で、人間が感染すると「エキノコックス症」という深刻な病気を引き起こす可能性があります。キツネの腸に寄生する成虫が産んだ卵が糞と一緒に排出され、人間がこの卵に汚染された水や食物を摂取することで感染します。体内で幼虫が肝臓や肺などに寄生し、袋状の病巣を形成するこの病気は、潜伏期間が長く(数年〜10数年)、放置すると命に関わることもあります。
予防方法と対策
専門のブリーダーや施設で繁殖されたキツネなら、定期的な駆虫や健康管理が行われているため、エキノコックス感染のリスクは低くなります。例えば、宮城蔵王キツネ村では全てのキツネが人工繁殖され、定期的な駆虫剤投与や施設内消毒が実施されています。
ペットとしてキツネを飼う場合でも、定期的な獣医師の検診と駆虫薬の投与、キツネに触れた後の手洗いの徹底、糞便の適切な処理、そして家族全員の定期的な健康チェックが重要です。野生のキツネを捕獲して飼おうとすることは、エキノコックス感染リスクの観点からも絶対に避けるべきです。どんなに健康そうに見える野生のキツネでも、エキノコックスを保有している可能性があるからです。
キツネの入手方法と飼育方法

キツネをペットとして飼いたいと思ったら、どのように入手し、どのように飼育すればよいのでしょうか。
入手方法と価格
日本でキツネをペットとして入手する方法は限られています。一般的なペットショップではなく、エキゾチックアニマル専門店や、キツネの繁殖を専門に行っているブリーダーから購入することになります。また、まれに飼育できなくなったキツネの里親を募集しているケースもあります。
ただし、日本国内でキツネを販売している業者やブリーダーは非常に少なく、入手は困難です。価格も種類や入手方法によって異なりますが、ペットショップでは90〜100万円程度、ブリーダーでは60〜90万円程度と非常に高額になります。これは、キツネの希少性や繁殖の難しさ、特殊な飼育環境の整備などを反映しています。
飼育環境とケア
キツネを飼育するためには、特別な環境を整える必要があります。まず、活発に動き回るため十分な運動スペースが必要です。また、脱走防止のため高さのある頑丈な囲いや、臆病なキツネのストレスを減らすための隠れ場所も必要です。種類によって適切な温度や湿度も管理しなければなりません。さらに、トイレのしつけが難しいため、清掃しやすい環境を整えることも重要です。
餌については、雑食性であるキツネには良質なドッグフードやキャットフードを基本食として、肉類(タンパク質源)や果物、野菜なども適量与えることが必要です。必要に応じてビタミンやミネラルのサプリメントも検討しましょう。犬と同様に、チョコレート、ネギ類、アボカドなど中毒を起こす可能性がある食べ物は与えてはいけません。
健康管理では、キツネを診察できる専門の獣医師を見つけ、定期的な健康チェックや駆虫薬の投与、必要な予防接種を行うことが大切です。爪切りや毛のケアなど定期的なグルーミングも必要になります。キツネはストレスに弱い動物ですので、静かで安定した環境を提供することも健康維持には欠かせません。
フェネック:ペットとして飼いやすいキツネの選択肢

キツネの中でも、比較的ペットとして飼いやすいとされているのがフェネックです。この小型のキツネについて詳しく見ていきましょう。
フェネックの特徴
フェネックは北アフリカのサハラ砂漠に生息する世界最小のキツネで、体長約30〜40cm(尻尾を除く)、体重約1〜1.5kgという小さな体に、特徴的な大きな耳(約10〜15cm)と柔らかい体毛を持っています。寿命は飼育下で約10〜12年です。
砂漠という厳しい環境に適応したフェネックは、大きな耳で体温調節を行い、足の裏の毛は熱い砂から足を守る役割を果たしています。臆病で警戒心が強い性格ですが、小さい頃から人間と一緒に育てると、ある程度懐くこともあります。
フェネックの入手と飼育
フェネックは一般的なキツネに比べると、日本でもペットとして流通していますが、それでも希少な動物です。価格はペットショップで60〜80万円、高いものでは100万円以上することもあります。エキゾチックアニマル専門店や専門ブリーダーから購入可能ですが、ワシントン条約の「付属書Ⅱ」に分類されているため、正規の輸入品を選ぶことが重要です。
フェネックは一般的なキツネより小型で飼いやすい面もありますが、トイレのしつけが難しく、夜行性であるため夜間に活発に活動し、鳴き声や音で近隣に迷惑をかける可能性があります。また、排泄物の臭いが強烈でこまめな清掃が必要です。フェネック専用の飼育用品はほとんどなく、他の小動物用品を代用することになります。砂漠出身のため、日本の湿度は苦手で、特に夏場は温度・湿度管理に注意が必要です。
フェネックは一般的なキツネよりは飼いやすいものの、犬や猫と比べるとやはり特殊な飼育知識と環境が必要な動物です。飼育を検討する際には、これらの特性をよく理解し、適切な環境を用意できるかどうかを慎重に検討する必要があります。
キツネを飼う際の現実的な課題と代替案

キツネをペットとして飼うことに興味を持ちながらも、実際には様々な課題があることを理解した方も多いでしょう。ここでは、キツネを飼う際の現実的な問題点と、その代替案について考えてみましょう。
キツネを飼う際の現実的な問題点
キツネをペットとして飼う際には、いくつかの現実的な課題があります。まず、しつけの難しさが挙げられます。キツネは犬のようにしつけることが難しく、特にトイレのしつけにはほとんど応じません。また、物を噛んだり掘ったりする習性があり、家具や壁を傷つける可能性があります。犬のように人間の言うことを聞くようにしつけるのも非常に困難です。
次に、臭いの問題があります。キツネ自体の体臭は比較的軽いですが、排泄物の臭いは非常に強烈で、室内で飼う場合は大きな課題となります。鳴き声の問題も深刻で、特に夜間に大きな鳴き声を出すことがあり、アパートやマンションなどの集合住宅では近隣トラブルの原因になりかねません。
さらに、キツネを診察できる獣医師を見つけることは容易ではなく、病気やケガの際に適切な治療を受けられない可能性もあります。そして、キツネの寿命は約10年程度で、その間継続的なケアと適切な環境を提供し続ける必要があります。
宮城蔵王キツネ村:キツネと触れ合える代替案
キツネを飼うことが難しいと感じる方には、キツネと触れ合える施設を訪れるという代替案があります。その代表的な施設が「宮城蔵王キツネ村」です。
宮城蔵王キツネ村は、宮城県白石市にあるキツネの展示を中心とした民間の動物園・テーマパークです。ここでは6種・約250頭のキツネが飼育されており、うち100頭以上が広い林の中で放し飼いになっています。キタキツネ、銀ギツネ、ホッキョクギツネなど珍しい種類のキツネも見ることができ、キツネへのエサやり体験や、時期によっては子ギツネの抱っこ体験も可能です。
この施設のキツネは全て人工繁殖した個体で、定期的に駆虫剤の投与や施設内の消毒が実施されているため、野生のキツネと違いエキノコックス感染のリスクは低減されています。宮城県白石市福岡八宮字川原子11-3にあり、営業時間は9:00〜17:00(冬季は16:00まで)、東北新幹線「白石蔵王駅」から車で約20分でアクセスできます。
キツネをペットとして飼うことは難しくても、このような施設でキツネと触れ合うことで、その魅力を安全に体験することができます。こうした施設を訪れることで、キツネの生態や特性について理解を深め、もし将来ペットとして迎える決心をした場合にも、より現実的な判断ができるようになるでしょう。
よくある質問(FAQ)

- Q日本でキツネを飼うには許可が必要ですか?
- A
日本においてキツネは「特定動物」(危険な動物)に指定されていないため、特別な許可証なしで飼育することが法律上可能です。ただし、野生のキツネを捕獲して飼育することは「鳥獣保護管理法」により原則として禁止されています。ペットとして飼う場合は、適法に繁殖された個体を専門のブリーダーやエキゾチックアニマル専門店から購入する必要があります。
- Qキツネのエキノコックス感染はどれくらい危険ですか?
- A
エキノコックス感染は非常に深刻な健康リスクをもたらす可能性があります。人間が感染すると「エキノコックス症」となり、肝臓や肺などに袋状の病巣ができ、潜伏期間が長いため気づかないうちに進行することもあります。放置すれば命に関わる場合もあるため、野生のキツネには絶対に触れないこと、ペットのキツネも定期的な獣医師のチェックと駆虫薬の投与が必要です。
- Qキツネは完全室内飼いできますか?
- A
キツネの完全室内飼いは非常に困難です。キツネは活発に動き回る習性があり、十分な運動スペースを確保する必要があります。また、排泄物の強い臭いや、物を噛んだり掘ったりする習性があるため、室内環境に大きなダメージを与える可能性があります。特に集合住宅での飼育は、騒音や臭いの問題から近隣トラブルの原因になりかねません。
- Qキツネとフェネックはどう違いますか?
- A
フェネックもキツネの一種ですが、北アフリカの砂漠地帯に生息する世界最小のキツネです。一般的なキツネと比べて体が小さく(体長30〜40cm程度)、特徴的な大きな耳(10〜15cm)を持っています。砂漠環境に適応しており、日本のキツネと比べてペットとして飼育されることが比較的多いですが、それでも特殊な飼育知識と環境が必要です。
- Qキツネをペットとして飼うのにかかる費用はどれくらいですか?
- A
キツネの購入費用は60〜100万円程度と非常に高額です。さらに、適切な飼育環境の整備(広いスペース、頑丈な囲い、温度・湿度管理設備など)にもかなりのコストがかかります。また、餌代、定期的な獣医師のチェック、駆虫薬の投与など、継続的な維持費も一般的なペットよりも高額になる傾向があります。総合的に見て、キツネの飼育には相当の経済的負担が伴うと考えるべきでしょう。
- Qキツネは犬のようになつきますか?
- A
キツネは犬とは異なり、完全に家畜化された動物ではないため、犬のように人間になつくことは一般的ではありません。小さい頃から人間と一緒に育てた場合でもある程度の警戒心を持ち続けることが多く、完全に懐くことは稀です。また、成長するにつれて野生の本能が強くなることもあります。フェネックは一般的なキツネよりも比較的人間に慣れやすいと言われていますが、それでも犬や猫のようになつくことは期待できません。
まとめ:キツネをペットにする前に考えるべきこと

キツネは法律上ペットとして飼育可能ですが、実際に飼う前には様々な要素を検討することが大切です。まず、キツネには適切な飼育環境が必要です。十分な広さのある専用スペース、近隣に迷惑をかけない環境(臭いや鳴き声の問題)、そして約10年という長期間にわたって継続的にケアできる環境を用意できるかどうかを考える必要があります。
経済的な面でも、60〜100万円という高額な購入費用に加え、餌代や医療費などの継続的なコスト、専用設備の整備・維持費など、相当の負担を覚悟しなければなりません。また、キツネに詳しい獣医師を確保できるか、エキノコックスなどの健康リスクに対応できるか、特殊な飼育知識を身につけられるかという専門的なケアの問題も重要です。
これらの課題を考慮すると、多くの人にとってはフェネックなど比較的飼いやすいキツネ種の検討や、宮城蔵王キツネ村などの施設でキツネと触れ合う選択肢、あるいは犬や猫など家畜化された動物を選ぶことがより現実的かもしれません。
キツネをペットとして飼うことは、法律上は可能でも、現実的には多くの課題があります。その美しさや魅力に惹かれる気持ちは理解できますが、安易な気持ちで飼い始めることは、キツネ自身の幸せにもつながりません。キツネとの共生を真剣に考えるなら、まずは専門施設を訪れて実際に触れ合い、十分な知識と準備を整えてからの決断が望ましいでしょう。